展示風景
片側の壁には、26 × 19.5 × D3 cm の同じフォーマットのキャンバス画が3点掛かっており、その反対側の壁には、1mも離れれば何もないと思われる壁に、130.5 × 98.5 cm のフォーマットで5点、総てが同じ図柄が描かれている。
以下、美術手帖 2002年7月号 キャラリー・レヴュー 選/評 臼木直子 記事
静謐な佇まいのなかに、ラディカルな思想を孕んだコンセプチュアル・アートである。
下地が白色に塗られた小さなキャンバス、そして白い展示壁に直接描かれているのは、それぞれが赤、黄、橙、緑、黒の5色から成る、ピンホール大の621色の点によって表された、一本の果樹。
トマト、オレンジ、レモンの実を二つずつ付け、その表面に、ドイツ語でその果実の頭文字を配した、同一のシンメトリックなパターン、1989年の制作開始からの通し番号と、色彩の配置、展示間隔によって、各々の差異が与えられている。
「意志をもって見ること」を強いるそれらの果樹は、1m余りも離れれば、背景の白地と混ざり合い、イメージとしての実体を失う。
「見る意志」をもって対峙することで、個々の作品には固有性が生まれ、さらに作品群としての「部分」を辿っていくと、ついにはシリーズ作品「全体」が捉えられる。
同時に、「全体」はまた、さまざまな「部分」の存在があって成り立つのだという。
(以下略)